私って恵まれている――頭痛が消えた新橋の午後
頭痛持ちの私が、新橋のオフィスビルで気づいたこと。身体は、自分が思う以上に周りのエネルギーを受け取っている。
今朝から頭が痛い。 私は頭痛持ち。 この憂うつさ、わかってもらえるだろうか。
新橋、取り引き先の会社のビルに入る。 古いビルで狭いロビーだが、受付がちゃんとある。 いつもの若い女性。互いに愛想笑いをした。そこまでがんばった。
このビルは何年、働く人たちのため息を吸ってきたんだろう。
モカ茶の布張りソファーに座る。 背もたれに身を預け、足を組む。顔は仏頂面。口がへの字口ってこと。 情けない顔だ。
私は、いちおう女。 こんな日が多いから、いつもグレーのパンツ。スカートなんていつから履いていないんだろう。 女である証拠にロングヘア。焦げ茶のゴムで後ろに一つまとめ。それだけ。
母の「その仏頂面辞めなさい。」という叱責が聞こえる。これは決まって左上から。
今日は許してよー。
いや、背骨を真っ直ぐにして、頭を傾けずに上に乗せて。 足を組んだらおしまいじゃないか。よけいに左右非対称になって、頭痛が悪化するに決まっている。
どんな時にも、微笑みを忘れず。 楽しいから笑うんじゃない、笑うから楽しくなるんだ。
亡霊のようにお説教が頭の周りをゆっくりと右回り。そして左回りする。 そして私の痛む左こめかみ上に、かぶりつく。
痛い。
勘弁してくれ。 きれいごととは、他人のエネルギーを奪うヴァンパイア。いじわるを正論でコーティングしているだけだ。そこには愛が微塵もない。

亡霊を手で振り払う。 僅かな風を感じた。
風よ、もっと吹いてくれ。この亡霊を吹き飛ばしてくれ。頭痛よ、消え失せろ。
ツヤツヤにメイクをした受付の女性が伝えた。 「相澤さま、担当が前の会議が長引き、後10分かかるようです。申し訳ございません。お待ちいただけますか。」
「大丈夫ですよ」
大いに結構。なんなら40分でもいい。
受付嬢に水をもらう。痛み止めを飲むため。 できれば飲みたくないさ。市販の薬。ひと月に一箱飲んでいるかもしれない。
向かいの階段から、4月のフレッシュな風が吹いてきた。 新入社員が降りてくる。誰が見ても新人くんだろう。
ひょろりとして、色白の整った顔。 真新しいスーツで緊張の面持ち、ぎこちなく歩いてくる。 一歩一歩、私以外に誰もいないのに四方に気を配るように。
強固な会社組織、東京のドライな人間関係に馴染もうとしているようだ。用心深く。 この新人くんは、どうやって乗り越えるんだろうか。
「相澤さまですか。上司よりお客様を案内するように言われまして。」
あどけない顔。澄んだ空気。 頭痛が消えそうな清々しさ。
思わず微笑む。私の自慢の笑顔。包み込む愛で安心させる微笑み。
お願い、君、くすまないでね。 たくましくなるんだろうけど、その澄んだ瞳を曇らせないでね。 そう願いながら。
会議室に入ると、打ち合わせの相手が待っていた。 この人、部長とは3年ぐらいの付き合いだ。 取り引き先でも友人と言ってもいいくらい仲良しだ。
「相澤さん、頭痛じゃない?なんかわかるんだよね。無理しないで。」
具合の悪さを隠せなかったことを多少反省するが、 この人の勘の良さ、優しさ、器の大きさには参る。 誰もが尊敬するだろう。こういう人に出世してもらいたいものだし、実際に役員になるんじゃないかと言われてる。
あったかい雰囲気の中で話が弾み、あっという間に1時間。 打ち合わせが終わる。もちろん新しい企画が生まれた。
晴れやかな気分になって外に出ると、さっきの新橋とは違う。 肩の力が抜けて笑顔で話しながら歩くサラリーマン。 ここは、みんなが少しだけ人間に戻る場所なのかもしれない。
あっ、私も頭痛が消えてるぞ。
頭痛を治せたらノーベル賞ものらしい。 でも今日の私の薬は、新人くんの澄んだ瞳と、部長の大きな器だった。
こんな日があるから、外回りも悪くない。
私って恵まれている。
身体は、あなたのことを知っている。
頭より先に、ずっと前から。
ノイズを取れば、身体は自然に戻っていく。
ノイズを取れば、人は勝手に最強になる。
エンパスの才能を一緒に開花させませんか

