身体と対話しよう②胃編

朝のカフェで

頭痛で目が覚めた。

またか。

神社に行こう。空気のいいところへ。

まず、近所の商店街のカフェに入った。

窓際の丸テーブルに座る。硬い木の椅子。

ハンドドリップのコーヒーの香りが漂ってくる。頭痛にじんわりプラスになる。

コーヒーを一口飲んだ。シャキッとするけど柔らかい、このカフェのコーヒーだ。

斜め向かいの人はパソコンから顔を上げない。仕事に乗っている。フロー状態だ。

ボサノバとポップスが混ざったような音楽。

窓の外にバス停。休日なのに仕事に向かう人がいる。ジャージ姿の中高生が足早に歩いていく。部活だろう。

私はいつものようにひたすら瞑想した。ノイズクリア。

気づいたら1時間。お客さんも増えている。

おまけに頭痛が消えていた。身も心も軽い。

だから調子に乗って、「せっかくだから」とモーニングを頼んだ。

トーストにジャム、サラダ。シンプルだけど、十分だ。

せっかくだから

カフェを出る。すぐそこに豆腐屋さんがある。

月に一度のイベントの日。就労支援の施設が運営する小さなお店。障がいのある方たちが豆腐を作り、お弁当を作り、地域に届けている。

割烹着に三角巾のおばさんが二人、にこにこ働いている。たこ焼き、花見弁当、豆乳ドーナツ。

白い調理着の眼鏡の男性が声をかけてくれた。 「豆乳ドーナツ、美味しいですよ。」

この人たちが作ったものは、絶対美味しいに決まってる。

「せっかくだから」と豆乳ドーナツを買った。

豆乳ドーナツを手に、公園のベンチに座る。

家族連れが多い。小学2年生くらいの男の子がパパとサッカー。元気な声が響く。

遊具では小さな女の子が高いところに。パパが心配そうにそっと手を添えている。お母さんたちは後ろでおしゃべり。

ぼーっと眺めながら、じんわりと幸せを感じた。

見上げると雲がふわふわ。豆乳ドーナツみたいだな。

気づいたら3個、ペロッと食べてしまっていた。豆乳だから体にいいかな、なんて思いながら。油で揚げてるんだけどね。

異空間を歩く

公園を後にした。神社へ向かう。

大通りからわき道に入る。

静かな住宅街。左に水路。のんびりした休日の空気。あちこちの家に布団が干されている。玄関前の花壇にパンジーとチューリップ。春が、ちゃんとここにある。

前から自転車が来た。眼鏡をかけた、真剣な面持ちの男の子。どことなく急いでいる。すれ違った。

風を感じなかった。空気が動いた感じもしない。

大学生のカップルが楽しそうに話しながら歩いてくる。声が聞こえる。笑っている。

パンジーとチューリップ。布団が干されている。水路が流れている。

全部見えている。全部聞こえている。でも、どこか遠い。

春の陽気の中を歩いているのに、薄いフィルターの向こうにいるようだった。現実の道を歩きながら、別の場所にいるような。

そんな静けさの中で、じわじわと胃が重くなってきた。

あ。これか。

少し歩きながら考えた。

さっきのドーナツの油。好きなものを食べた。美味しかった。なのに重い。

体が重いのか、心が重いのか。

なんで後悔しているんだろう。なんで反省しているんだろう。

好きなもの、美味しいものを食べて幸せなはずなのに。こんなに気持ちのいい陽気で、のどかな道を歩いているのに。

答えが出ないまま、足が止まった。

胃ちゃんとの対話

目を閉じて、胃のあたりに意識を向けた。

「胃さん、ありがとう。あなたのおかげで私はこうやって生きています。」

ごめんなさい。許してください。ありがとう。愛しています。

ごめんなさい。許してください。ありがとう。愛しています。

ごめんなさい。許してください。ありがとう。愛しています。

ごめんなさい。許してください。ありがとう。愛しています。

「全てのストレスをぶつけてきて、ごめんなさい。」

ぶわっと浮かんできた。

ストレスを感じるたびに、まず食べた。瞑想もノイズクリアも、食べてからじゃないとできなかった。

他人のエネルギーをそのまま受け取ってしまう。気づけば自分がどこにいるのか分からなくなる。そんな時、食べることだけが確かだった。

口に入れた瞬間の、あの感覚。体が「ここにいる」と教えてくれる。一時の幸福感。空っぽの自分が、少し満たされる気がした。

それが言い訳だと、分かっていた。胃に、全部押し込めていた。ずっと。

涙がこみ上げてきた。

ごめんなさい。許してください。ありがとう。愛しています。

さらに静かになった。さっきとは違う。もっと深い場所の静けさ。

「…うん。」

胃の声が聞こえた気がした。

「…わかってるよ。やっと気づいてくれたね。」

突然、胃が変化した。

くすんだ黒に近い色が、ふわっと消えた。 鎧のように覆っていたものが、パンとはじけた。

中から、光が放たれた。まぶしかった。

黄金のようにキラキラ輝いている。でもそれより、もっと軽やかで、もっと生き生きとしていた。

突然、光の奥から何かが現れた気がした。長いくるんとカールしたまつ毛が、ぱっと大きく見開かれた。

「…ありがとう。やっと認めてくれたね。」

4歳みたいな、無邪気な声だった。

「胃ちゃんだね。」

胃ちゃんが答えた。

「美沙ちゃん、ありがとう。 美沙ちゃんのこと、大好きなんだよ。

美沙ちゃんはいつも無理ばかりするから。 だからかわいそうで、かわいそうで。 僕がなんとかしてあげたいと思ってたの。

本当に大変な中、頑張ってるから。 見てて切ないくらいだよ。

僕が我慢して美沙ちゃんが幸せならそれでいい。 それくらい、僕は美沙ちゃんが好きなんだ。

でも美沙ちゃん、ようやく気づいてくれたね。」

涙が出た。

「ごめんね、胃ちゃん。 ずっと無視して、我慢ばかりさせてた。 ごめんね。許してね。」

ありがとう。

愛してます、胃ちゃん。

本当に、愛してるよ。

あなたにも回路がある

しばらく、そこに立っていた。

胃が、軽くなった。

春の陽気が、さっきより近くなった気がした。

私は幸せだ。 だって、こんなにかわいい胃ちゃんが味方なんだもの。

お豆腐屋さんの優しい笑顔。豆乳ドーナツの温かさ。神社へ向かう静かな道。

全部、繋がっていた。

ほのぼのとした温かさも、神道の祓いも、ホ・オポノポノも。みんな同じ場所に向かっている。

本来清浄な状態へ。ゼロへ。

相澤美沙はノイズクリアをやっていたから、回路があった。だから5回で届いた。

あなたにも回路がある。 気づいていないだけで。

身体は、あなたのことを知っている。
頭より先に、ずっと前から。
ノイズを取れば、身体は自然に戻っていく。

ノイズを取れば、人は勝手に最強になる。

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